一言に包丁といっても和包丁と洋包丁に大別されます。
今回はそもそも和包丁と洋包丁には、どのような違いがあるのかという点についてお伝えしていきたいと思います。
刃の形状と刃付けの違い
和包丁は基本的に片刃
和包丁は基本的には片刃構造の包丁となっています。

しのぎ(鎬):
刃の厚みから刃先にかけての面取り部分を「しのぎ」と呼びます。しのぎは刃の強度・切れ味・バランスに影響し、このラインがはっきりしていることで、刃付けや研ぎ作業が明確になり、職人が狙った角度で刃を研ぎやすくなります。
平(ひら):
刃の表側は、ほぼ平らな面で構成されており、「平」と呼ばれます。この平面は包丁を安定させ、均一な切れ味を出す元になると同時に、表側の正確な刃付けを可能にします。
裏スキ:
裏面に施された緩やかなへこみ部分が「裏スキ」です。食材を切断した際、余分な接触面積が減ることで摩擦が軽減され、滑らかな切り心地や食材の離れの良さが生まれます。これは刺身包丁などで非常に重要で、スッと刃を引くだけで滑らかに食材を切り離せます。
裏押し:
裏側のエッジ近くにあるわずかな平面部分で、研ぎを行う際、ここを基点にして均等な角度を保ちやすくします。裏押しは刃全体を研ぎ直す際にもガイドとして働き、刃付けや研ぎの安定性を高めます。
この片刃構造により両刃よりもシャープな刃付けが可能で、特に繊細な切り方を要求する刺身や和食の飾り切りなどに最適な作りになっています。
また、裏スキによる摩擦軽減と、一方向に研ぎ込むことによる切り面の滑らかさから、切断面がきれいになり、食材が刃にくっ付きにくくなります。
コントロール性にも優れており切る際に刃が特定の方向へ「流れる」特性があり、熟練者はこの特性を利用して正確な切断方向にコントロールすることが可能です。
一方、デメリットもあります。片刃の構造は基本的に右利き用に設計されているため、左利きの人は専用の左利き用片刃包丁を用意する必要があります。
また、両刃包丁と比べ研ぎ作業が専門的で、裏押しや裏スキ部分も正確な研ぎを必要とします。不適切な研ぎ方をすると裏スキの形状がくずれ、切れ味や特性が損なわれます。
総じて、片刃はプロに適した構造といえるでしょう。ただ、和包丁でも牛刀や三徳などの両刃のものもありますので家庭用で使う場合は万能型の両刃の包丁を使用することになるかと思います。

洋包丁は基本的に両刃
両刃包丁は、刃の両側が対象的な形状に研がれている包丁のことです。ヨーロッパやアメリカなどの西洋文化圏で一般的に用いられている形状となります。

両刃包丁は、刃先に向かって左右対称に刃が付けられており、断面を見ると左右から均等な角度で研ぎ込まれていることがわかります。
両方の面がほぼ同じ角度で研がれているため、左手・右手のどちらでも扱いやすいのが特徴です。また、刃先が中央に位置するため、切断時のバランスが取りやすく、食材を押し切る、叩き切る、刻むといった操作がしやすくなります。
そのため、特に骨付き肉や硬い野菜など、抵抗が大きい食材を切るのに適しています。
また、研ぎ方が比較的簡単で、特殊な裏面加工(裏スキや裏押し)を考慮する必要がありません。一般的な研ぎ方で切れ味を維持しやすいため、日常的なお手入れが容易です。
一方、片刃のような繊細さには欠けるため、刺身の薄造りや細かな装飾切りなど、素材の魅力を最大限に引き出す精密な作業は得意ではありません。
用途と種類の特徴
日本料理は素材の味を引き出す繊細な技術が特徴で、そのために包丁も食材ごとに特化したものが多いです。
以下は簡単な分類ですが、和包丁は他にも貝先やアジ切り、鮭切り、鰻裂など各用途に応じた包丁が数多く取り揃えられています。また三徳包丁は主に家庭用で、プロはそれぞれの用途に応じた包丁を随時選択して使用しています。

もう少し細かく和包丁を分類したものが以下となります。
万能型 | 三徳包丁 |
---|---|
菜切包丁 | |
魚を捌く用 | 出刃包丁 |
身卸包丁 | |
アジ切り包丁 | |
貝先包丁 | |
刺身を引く用 | 刺身包丁 |
刺身先丸 | |
刺身切付け | |
タコ引き包丁 | |
野菜を切る用 | 薄刃包丁 |
鎌薄刃 | |
皮剥き包丁 | |
特殊用 | 鱧切包丁 |
蕎麦切り包丁 | |
スイカ切り包丁 | |
中華包丁 | |
寿司切り | |
鰻裂 | |
江戸裂 |
一方、洋食文化は、同じ包丁で多様な食材を処理する場面が多く、一本で幅広い用途に対応する牛刀やペティナイフなど汎用性の高い包丁が中心です。
万能型 | 牛刀 |
---|---|
ペティ | |
骨や肉を切る用 | 筋引き |
骨スキ | |
洋出刃 | |
パン用 | パン切り |
材質や製造技法の違い
和包丁と洋包丁では、主に使われる鋼材の特性や組成に違いが見られます。以下は分かりやすいポイントです。
炭素含有量のちがい
和包丁は高炭素鋼を使うことが多く、炭素含有量が比較的高めです。
これによって包丁は非常に鋭利な刃先を得やすく、切れ味が長持ちします。そのぶん欠けやすさに注意が必要です。
一方、洋包丁ではステンレス系の合金鋼がよく用いられ、炭素量は和包丁ほど高くありません。
そのため、和包丁ほど鋭利な刃を得るのは難しい場合もありますが、錆びにくくお手入れがしやすい特徴があります。
製造技法の違い
和包丁には、大きく分けて「本焼包丁」と「霞包丁」という2つのタイプがあり、それぞれ製造方法が異なります。
本焼包丁は一つの鋼材で作られた包丁で、霞包丁は鋼を芯材にし周囲を軟鉄で包み込む「割り込み」や、鋼材を軟鉄で挟み込む「三枚合わせ」などの技法です。

それぞれの違いは以下となります。
本焼包丁 | 霞包丁 | |
特徴 | 刃全体が同一の高級鋼材のみで作られる「全鋼」構造。伝統的には日本刀と同様の焼入れ・焼戻しを行い、高い硬度と鋭い刃先を実現。 | 硬い鋼(刃金)を芯材とし、柔らかい軟鉄(地金)で挟み込む「割り込み」構造で作られた包丁。 |
メリット | 研ぎ上げると非常に鋭利な刃先を得られ、刃持ちも優れている。 | 全鋼に比べ欠けにくく折れにくいバランスに優れます。研ぎやすく、扱いやすいことが多く、価格的にも本焼ほど高価にならない場合が多いです。 |
デメリット | 素材や製法が高度で、職人技が求められ価格も高価になりやすい。全体が硬い鋼でできているため、欠けやすく、取り扱いに注意が必要です。また、錆びやすい素材が用いられることもあり、手入れが欠かせない。 | 全鋼包丁ほどの極限的な鋭さや刃持ちにはやや劣ることもある。それでも十分高い切れ味と使いやすさを誇る。 |
対象者 | 職人用 | 家庭用 |
一方、洋包丁は多くの場合、均一なステンレス鋼素材で作られることが多く、構造は比較的シンプルです。
持ち手(ハンドル)の違い
和包丁の柄は、軽い木材(朴など)を使い、D字・八角・丸など独特の断面形状が多く、差し込み式で軽く繊細な使い心地が特徴です。

一方、洋包丁の柄は、硬質な素材(プラスチックや積層材など)でフルタング構造が主流。
太めで左右対称の形状で握りやすく、耐久性や安定感に優れます。この違いによって、和包丁は繊細な作業、洋包丁はパワフルな切り込みに適しています。
メンテナンスの違い
和包丁と洋包丁のメンテナンスの違いについてもお伝えしていきます。
使用環境・取り扱い
和包丁は非常に繊細な刃を持つため、固い食材(冷凍食品や硬い骨)を無理に切ると刃こぼれしやすいです。
扱い方にも気をつけて、刃への負荷を減らす工夫が必要です。
一方、洋包丁の刃は和包丁ほど繊細ではなく、比較的雑に扱っても欠けにくい傾向があります。
また、食洗機不可のものもありますが、和包丁ほど厳格なルールはないことが多いです(ただし、高級な洋包丁は手洗いと手入れを推奨)。
日頃の錆(サビ)への対策
和包丁は多くは高炭素鋼が用いられており、非常に鋭い切れ味を得られる反面、錆びやすい性質があります。
そのため、使用後はすぐに水分を拭き取り、乾燥させることが重要です。濡れたまま放置すると錆びやすく、刃の寿命が短くなります。
一方、洋包丁はステンレス系合金鋼が一般的で、錆びにくい特性を持ちます。完全に水分を拭き取ることは望ましいですが、和包丁ほど錆びに神経質になる必要は少ないです。
研ぎ直し・刃の手入れ
和包丁においては研ぎ直しは包丁の切れ味を保つために必要です。定期的に砥石で丁寧に研ぐことで、本来の鋭さを維持します。素材が硬く鋭利な分、細かい砥石を用いた丁寧な研ぎが求められます。
一方、洋包丁は比較的柔軟なステンレス鋼のため、一般的なシャープナーや砥石でも研ぎやすく扱いやすいです。
また、和極限の鋭利さを追求する必要はなく日常的なメンテナンスは簡易シャープナーを使うことも可能です。
まとめ
簡単にまとめると以下となります。
和包丁 | 洋包丁 | |
刀の形 | 片刃が主流 | 両派が主流 |
種類 | 用途別に豊富 | 汎用性高いものが多い |
鋼材 | 高炭素鋼で切れ味がよい | ステンレス鋼などの軟鉄 |
製造方法 | 本焼包丁の他に霞包丁という合わせ鋼形式のものもある | 基本的には一枚の鋼材で仕立てる |
メンテナンス | 日頃の環境やメンテナンスに十分な注意が必要 | 和包丁より錆びにくく、メンテナンスは簡単でよい |
自身の用途にあった包丁を選択していきましょう。
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