包丁の鋼材として使われるコバルトスペシャルとは?切れ味や刃持ちなどをVG10などと比較しながら徹底解剖!

包丁の鋼材として使われるコバルトスペシャルとは?切れ味や刃持ちなどをVG10などと比較しながら徹底解剖!

日本の職人が作る包丁の鋼材として伝統的なもの白紙鋼青紙鋼などの炭素鋼があります。

しかし、近年ステンレス鋼にも脚光が当たり始めています。以前は切れ味で炭素鋼に大きく劣っていましたが、現在では炭素鋼に劣らない鋼材がでてきて注目が集まっています。

その中の一つが今回お伝えするコバルトスペシャルです。

今回はコバルトスペシャルがどのような鋼材なのか紐解いた上で、様々なステンレス鋼と比較して評価していきたいと思います。

目次

コバルトスペシャルの成分

コバルトスペシャル(Cobalt Special)は、大同特殊鋼が製造するステンレス系の刃物鋼です。

同社の公表資料が少なく、正確な成分は一部非公開とされています。以下の数値は主に第三者機関や各種文献、メーカーが公表している類似情報を基にした推定値・近似値です。参考程度とお考えください。

元素含有量(質量%)主な役割
C(炭素)約 1.1~1.3・鋼を硬くし、耐摩耗性を向上
・切れ味の鋭さに寄与
Cr(クロム)約 14~15・ステンレス特性(耐食性)を付与
・焼入れ性の向上
Co(コバルト)約 2~3・硬度・耐摩耗性の向上
・高温特性の安定化
Mo(モリブデン)約 2~3・耐食性や靭性(粘り)を向上
・焼入れ性の向上
W(タングステン)約 1~2(※)・耐摩耗性や高温強度を向上
V(バナジウム)少量(0.2~0.3程度)・炭化物形成により組織を微細化し、刃持ちや切れ味を強化
Fe(鉄)残部(バランス)・基材

タングステンについては、含有の有無や含有量が文献や情報源によって異なる場合があります。

コバルトスペシャルは高硬度・高耐摩耗性・耐食性のバランスに優れているため、プロ用包丁やこだわりのある家庭用包丁にも採用される高級刃物鋼です。

一方で、コストや加工の難易度が上がるため、市場に出回る製品は比較的高価格帯になりがちです。

コラム:大同特殊鋼はどのような会社なのか?

大同特殊鋼

大同特殊鋼株式会社(Daido Steel Co., Ltd.)は、日本を代表する特殊鋼メーカーの一つです。

主に特殊鋼(高機能鋼材)の開発・製造・販売を手がけており、自動車・産業機械・エネルギー・電子部品など、さまざまな分野の産業を支えています。自社の研究所で合金設計熱処理技術の開発を継続的に行い、高機能・高品質な鋼材を提供することに力を入れています。

大同特殊鋼では、コバルトスペシャル以外にもDSR(Daido Stainless Razor/Blade Steel) やSUS 系列や工具鋼といったステンレス刃物鋼のブランドを展開しています。以下は表にして纏めたものです。


スクロールできます
鋼材名称推定化学組成(目安)特性 / 特徴主な用途 / ポジション
DSR1K6– C:0.55~0.65%
– Cr:13~14%
– その他:Si, Mnなど
– 一般的なステンレス包丁に使われやすい硬度帯
– 切れ味・耐食性ともに実用レベル
– コストパフォーマンスに優れ、量産包丁に多く用いられる
廉価帯~中堅クラスのステンレス包丁
家庭用の実用包丁に広く採用
DSR1K7– C:0.65~0.75%
– Cr:13~14%
– その他:Si, Mnなど
– 1K6より炭素量がやや多く、硬度・刃持ちが向上
– 研ぎ難度や製造コストもやや上昇
– バランスの良い実用性と高めの切れ味
中堅クラス~やや高級ラインのステンレス包丁
一般家庭・プロのサブ包丁など
DSR7K10– C:0.7~0.8%前後(諸説あり)
– Cr:14~15%程度?
– DSRシリーズ内でも炭素量が高めで、硬度・耐摩耗性が高い
– 包丁の切れ味・刃持ちを強化しつつステンレス性も確保
– 高級量産包丁に採用例あり
中~高級クラスのステンレス包丁
長切れ重視の家庭用・プロ用包丁に採用
SUS420J2– C:約0.2~0.4%
– Cr:約12~14%
– その他:Si, Mnなど
– マルテンサイト系ステンレスの代表格
– 安価で加工性に優れ、入門用ステンレス包丁に多用
– 切れ味・刃持ちは高級鋼ほどではないが、錆びにくくお手入れが簡単
廉価帯の包丁やキッチンナイフ
はさみ、工具などの一般的な刃物にも採用
DC53(工具鋼)– (参考値)C:1.0%
Cr:8.0%
Mo:2.0%
V:0.3% 前後(SKD11系を改良)
– 冷間ダイス鋼(SKD11)をベースに改良した高強度・高靭性工具鋼
– 元々はプレス型など工業用だが、一部カスタムナイフ・包丁にも転用
– 焼入れ後HRC60台後半を狙えるが、ステンレスではない点に注意
工具鋼としてプレス金型など工業用途がメイン
一部カスタム包丁・ナイフメーカーが採用

注1:上記の C(炭素)・Cr(クロム)などの数値は参考値です。
注2:大同特殊鋼が公式に詳細成分を公開していない場合もあり、実際の組成は上記と異なる可能性があります。

炭素鋼の安来鋼とならんで大同特殊鋼は代表的な包丁鋼材メーカーといえるでしょう。

コバルトスペシャルの製造工程

コバルトスペシャル(Cobalt Special)は、大同特殊鋼が独自に開発・製造している高級刃物鋼ですが、メーカーからは詳細な製造工程が一般向けに詳しく公開されているわけではありません。

そのため、以下で示す工程は「特殊鋼一般の製造フロー」や、同社の公表資料・特殊鋼業界の一般的な製造プロセスを参考とした推定的な流れになります。この項目に関心がない方は次の項目にスキップしていただければと思います。

STEP
原料の選定・調合

◯ スクラップ鋼や純鉄、合金元素(クロム、モリブデン、コバルトなど)を厳密に計量し、目的とする化学組成となるよう調合します。
◯ コバルトスペシャルはコバルトを多く含むため、コバルト合金元素の品質・配分が重要となります。

STEP
溶解(製鋼工程)

◯ 大同特殊鋼の場合、電気炉(EAF: Electric Arc Furnace)や高周波溶解炉を用いて、原料を高温で溶解します。
◯ 必要に応じて酸素や炭素の調整を行い、不純物を取り除いていきます。

STEP
二次精錬(精製工程)

◯ 溶解した鋼をさらに純度・組成を高めるために、LF(Ladle Furnace)や真空脱ガ装置(VD, VODなど)を用いる二次精錬を実施します。
◯ 不純物やガス(特に酸素や窒素など)を低減し、狙いの成分比率に微調整します。
◯ 高級鋼材の場合、ESR(Electro Slag Remelting: 電磁スラグ再溶解法)やVAR(Vacuum Arc Remelting)などの再溶解プロセスを用いることもあります。

STEP
鋳造(インゴットまたは連続鋳造)

◯ 精錬後の溶湯を鋳型に流し込み、インゴットとして固めるか、**連続鋳造(Continuous Casting)**でビレットやスラブを成形します。
◯ 高級鋼材や特殊サイズの場合はインゴット鋳造されることが多く、その後鍛造圧延を繰り返すことで組織を均質化します。

STEP
鍛造・圧延(熱間加工・冷間加工)

◯ 固化したインゴットやビレットを加熱し、プレス機や鍛造ハンマーなどで鍛造します。
◯ 必要なサイズ・形状(棒材、板材など)に合わせて熱間圧延冷間圧延を行い、所定の寸法精度まで加工します。
◯ この過程で組織をより均質化し、鍛流方向を整え、素材としての強度や靭性を引き上げます

STEP
焼なまし(アニーリング)・予備熱処理

◯ 圧延や鍛造後の内部応力を除去し、組織を安定化させるために焼なましを行います。
◯ 包丁などの刃物用途を想定した場合、製造メーカー(包丁メーカー)側での最終熱処理(焼入れ・焼戻し)がしやすいように、予備熱処理を施すこともあります。

STEP
検査・品質チェック

◯ 化学成分・硬度・組織検査(顕微鏡観察など)を行い、コバルトスペシャルとして要求される各種特性(成分比率・純度・組織の均一性など)が満たされているかを確認します。
◯ 必要に応じて超音波探傷やX線検査など、非破壊検査を実施し、内部欠陥の有無をチェックします。

STEP
出荷(素材としての完成)

◯ 棒鋼・板鋼・コイルなどの形態に仕上げられ、刃物メーカーや切削工具メーカーなどに出荷されます。

STEP
最終熱処理(包丁メーカーでの工程)

◯ 実際に包丁や刃物を製造するメーカーが、目的の硬度・刃持ち・靭性を得るために、焼入れ・焼戻しといった最終熱処理を行います。
◯ コバルトスペシャルの場合、一般的にHRC 62~65程度の硬度を狙うことが多く、各社独自のレシピ(温度・時間・冷却方法)が存在します。

数多くの工程を経てコバルトスペシャルが製造されていることが分かりますね。

コバルトスペシャルの特徴

先ほどお伝えした通りコバルトスペシャルは硬くて刃持ちが良く、錆びにくいという利点から、プロ仕様の包丁やこだわりの家庭用包丁にも採用されています。

一方で、加工の難しさやコストの高さがあるため、当然コバルトスペシャルを刃材として用いた包丁も比較的高価な製品となります。

以下はコバルトスペシャルの主な特徴をまとめたものです。

特徴説明
高い硬度
優れた刃持ち
– 焼入れ後はHRC 62~65程度の高い硬度を実現。
– 切れ味が長続きし、プロの現場や包丁にこだわりのある方から高い評価を得ている。
高い耐摩耗性– 組織の微細化により磨耗に強く、刃こぼれしにくい。
– 研ぎ直しの頻度を減らせるため、メンテナンス性が高い。
良好な耐食性
(耐錆性)
– ステンレス系の鋼材のため、水分や湿気に強く錆びにくい。
– メンテナンスの手間が比較的少なく、扱いやすい。
加工の難しさ
コスト
– 高硬度ゆえに加工・熱処理には高度な技術を要する。
– 製造コストが高いため、高級包丁に用いられることが多い。

コバルトスペシャルのHRCは62-65で他の炭素鋼やステンレス鋼と比較すると以下となります。代表的な炭素鋼である白紙2号や青紙2号と同様の硬度を誇っています。

代表的な包丁の素材のHRC

ステンレス鋼なので錆びにくく、更にステンレス鋼の中でメンテナンスがしやすいということで万能型の包丁となっています。

他のステンレス鋼と「切れ味」「持続性」「研ぎやすさ」「錆びにくさ」の性能を比較したものが以下となります。かなり優れたステンレス鋼であることが分かりますね。

各種ステンレス鋼の「切れ味」「持続性」「研ぎやすさ」「錆びにくさ」の評価

コバルトスペシャルをV金10号や粉末ハイス鋼の比較

より詳しくコバルトスペシャルをV金10号粉末ハイス鋼(SG2)を様々な観点から比較していきます。


それぞれの項目で大まかな優劣・傾向を示すため、1位、2位、3位の形であくまで一般的傾向として各項目でランキングしています。

実際の性能はメーカーの熱処理や刃付けなどによって大きく変動し、使い手の好みや使用環境にも左右される点にご留意ください。

項目コバルトスペシャルSG2V金10号
鋼種分類高級ステンレス刃物鋼粉末冶金系
ステンレスハイス鋼
ステンレス刃物鋼
主な成分
– C:1.1~1.3%
– Cr:14~15%
– Co:2~3%
– Mo:2~3%
(+WやVを微量含有の場合も)
– C:1.25% 前後
– Cr:14~15% 前後
– Mo:2~3%
– V:2% 前後
(粉末冶金)
– C:1.0% 前後
– Cr:15% 前後
– Mo:1%
– Co:1.5%
– V:0.2~0.3% 前後
硬度 (HRC)
(目安)
2位
HRC 62~65程度
1位
HRC 62~66 程度
3位
HRC 58~61 程度
切れ味2位
高硬度・微細組織で鋭い刃付けが可能
1位
粉末冶金特有の微細組織で最も鋭利な刃付けが可能
3位
十分良好だが、上位2種と比較するとやや劣る
耐摩耗性(刃持ち)2位
高い耐摩耗性
1位
超微細組織で非常に高い刃持ち
3位
実用には十分だが、上位2種には及ばない
耐食性(錆びにくさ)1位
成分バランスが良く耐食性が高い
2位
ステンレスハイス鋼として十分に高い
3位
ステンレス鋼として良好だが、上位2種ほどではない
研ぎやすさ2位
硬いものの、熱処理・組織次第で比較的研ぎやすい場合も
3位
非常に硬いため、やや研ぎにくい
1位
上記2種と比較するとやや軟らかく、刃付けがしやすい
価格帯2位
高価だがSG2ほど入手コストが上がらないことが多い
3位
粉末冶金系のため非常に高価
1位
量産品も多く、3種の中では比較的安価
主な特徴– 高硬度・高耐摩耗性・高耐食性のバランスが良い
– コバルト含有による独特の切れ味と粘り強さがある
– 高級包丁・ナイフ素材として人気
– 粉末冶金のため組織が非常に微細
– 硬度・耐摩耗性・切れ味すべてがトップクラス
– 研ぎや加工が難しく、価格が高い
– オールラウンドな特性を持つ高級ステンレス刃物鋼
– 切れ味・耐食性・研ぎやすさのバランスが良好
– 価格・入手性も比較的安定

コバルトスペシャルは総評するとバランスの良くハイスペックというところが最大のメリットですね。

総評・使い分けの目安
  • 最高の切れ味・刃持ちを求める場合は、SG2 が最有力候補。ただし、高価かつ研ぎ難い部分もあるため、熟練者向け。
  • バランスよく、かつ高級感も欲しい場合は、コバルトスペシャルが好選択。耐食性も非常に高く、プロ用途でも評価されている。
  • 扱いやすさ(研ぎやすさ)やコストを重視するなら、VG10 が最も入手しやすく、コストパフォーマンスも良い。プロ・アマ問わず広く愛用されている。

最終的には料理の内容や使い手の好み、予算などを考慮しながら選ぶことが重要です。

刃物としての完成度は製造メーカーの熱処理技術や刃付け、メンテナンスなどにも大きく左右されるため、鋼材のスペックだけでなく総合的な品質を見極める必要があります。

おすすめのコバルトスペシャル包丁

それでは実際におすすめできるコバルトスペシャルを使ったおすすめの包丁をお伝えしていきたいと思います。おすすめするのは實光刃物の(【秘宝】クイーン 白 三徳包丁)です。

切れ味★★★★★
錆びにくさ★★★☆☆
メンテナンス性★★★☆☆
美しさ★★★★★
価格 (180mm)47,190円(税込)

實光刃物(じっこうはもの)は、大阪府堺市にある創業100年以上の老舗包丁専門店です。伝統技術と職人の手仕事を重んじ、和包丁から洋包丁まで幅広く扱い、高品質な製品を国内外に提供しています。

料理人の評価も非常に高くプロ用の包丁として重用されています。

料理人の口コミ

刃渡り180mmのサイズは、肉・魚・野菜といった多様な食材に対応でき、日々の調理作業を効率化します。また、オーク材のハンドルは手に馴染みやすく、長時間の使用でも疲れにくい設計です。全品検品・刃付け済みで、購入後すぐに使用可能な点も魅力的です。

料理人の口コミ

この三徳包丁は、プロの現場で求められる高い品質と実用性を兼ね備えています。コバルトスペシャル鋼の刃は、鋭い切れ味が持続し、食材の繊維を潰さず美しい断面を実現します。さらに、オーク材のハンドルは耐久性とデザイン性に優れ、衛生的でお手入れも容易です。實光刃物の120年以上の伝統と技術が詰まったこの包丁は、プロフェッショナルの要求に応える一本としておすすめできます。

まとめ

コバルトスペシャルは大同特殊鋼が製造するステンレス鋼です。

炭素鋼に劣らない切れ味を誇りながら、ステンレス鋼のメリットである錆びにくさを保ちつつ、粉末ハイス鋼より研ぎやすいというバランスのよい鋼材となっています。

各種ステンレス鋼の「切れ味」「持続性」「研ぎやすさ」「錆びにくさ」の評価
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