包丁は様々な素材によって製作されています。

今まで、青紙鋼や白紙鋼やZDP189やAU10などのステンレス鋼についてお伝えしていきました。

今回、紹介するのは銀紙鋼です。銀紙鋼の特徴とおすすめの包丁についてお伝えしていきたいと思います。
銀紙鋼の特徴とは?
まず銀紙鋼の特徴についてお伝えします。
青紙鋼や白紙鋼と同じ安来鋼である
日本刀や包丁の鋼材として「銀紙○号」と呼ばれるものは、日立金属安来工場(通称:安来鋼)で生産されています。
そのため、安来鋼の一種として分類されています。
炭素鋼ではなくステンレス鋼
ただ、青紙鋼や白紙鋼、黄紙鋼とは大きな違いがあります。
これらの鋼は鉄に炭素を加えた炭素鋼ですが、銀紙鋼はステンレス鋼となっています。
銀紙鋼には銀紙1号と銀紙3号が販売されています。
どちらも錆びにくく、硬度・切れ味に優れる高級ステンレス刃物鋼として知られています。
ステンレス鋼のなかでは組成がシンプルなほうで、比較的研ぎやすい鋼種とされる。
コストパフォーマンス
VG-10 や粉末ステンレス鋼(SG2 など)と比べると、やや低価格帯~中価格帯が中心でとなっています。
コストと性能のバランスが良いのも銀紙鋼の強みといえるでしょう。
コラム:なぜ銀紙2号は存在しないのか?
先ほどなぜ銀紙2号は存在しないのか?
と疑問に思われた方は多かったのではないでしょうか?
確かに「銀紙2号」に該当する名称は通常市販されていません。実際、「なぜ銀紙2号は存在しないのか」という点について、メーカー(旧日立金属)から公式に説明された資料は見当たりません。
しかしながら、業界の慣例や他の鋼材の事例から推測される理由としては、以下のような可能性が考えられます。
企業が開発した鋼材のうち、市場のニーズや特性が合わないなどの理由で商品化あるいは大量生産に至らないケースは多々あります。
「銀紙2号」に相当する試作鋼材があったものの成果が芳しくなかった、あるいはほかのラインナップと競合して差別化が難しいなどの理由で正式名称としては採用されなかった可能性が考えられます。
銀紙1号と銀紙3号の違い
それでは銀紙1号と銀紙3号の違いについてみていきましょう。
成分状の違い
以下の表は、一般的に公表されている情報や刃物関連の資料をもとに「銀紙1号(Gin-1)」と「銀紙3号(Gin-3)」の主成分を比較したものです。
実際にはメーカーやロット、生産時期などにより微妙に異なる場合がありますので、あくまで目安・参考値としてご覧ください。
元素 | 銀紙1号 (Gin-1) | 銀紙3号 (Gin-3) |
---|---|---|
C | 約 0.95~1.05% | 約 0.8~1.0% |
Cr | 約 13~14.5% | 約 13~14.5% |
W | (記載なし or ごく微量) | 約 1~2% |
V | 約 0.2~0.3% | 約 0.2~0.4%(資料により差あり) |
Mo | 約 0.3~0.5% | ごく微量(0~0.2%程度) |
成分状の違いは「モリブデンがしっかり入った銀紙1号」と「タングステンを多めに含む銀紙3号」という点に集約されます。
成分の違いによる特性の違い
銀紙1号 (Gin-1)は比較的炭素含有量が高めで、モリブデンを確実に含有しています。
高硬度化が可能で、切れ味や刃持ち(耐摩耗性)が高いのが特徴的です。ステンレス系刃物鋼としては錆びにくさと切れ味のバランスが優秀な鋼材となっています。

銀紙3号 (Gin-3, Ginsanko)はタングステン(W)の含有がやや高めで、研ぎやすさが強みとなっています。
銀紙1号ほど高硬度にはしない場合が多いですが、十分な切れ味と扱いやすさを両立したオールラウンダー的な鋼材となっています。
代表的なステンレス鋼のVG10号と銀紙3号の比較
同じく高級ステンレス鋼として有名なVG10号と銀紙3号を比較したものが以下となります。
実際の性能はメーカーや熱処理方法によって変わる場合がありますが、参考の目安としてご覧ください。
項目 | 銀紙3鋼(銀3鋼) | VG10 |
---|---|---|
鋼種分類 | 日立金属製ステンレス鋼 (“銀紙シリーズ”の一種) | 武生特殊鋼(Takefu Special Steel)製ステンレス鋼 |
主な成分 | – C:約0.9~1.1% – Cr:13%前後 – Moなどの微量元素(メーカーにより配合に差あり) | – C:約1.0% – Cr:15%前後 – Mo:1% – V:0.2~0.3% – Co:1.5%前後 など各種合金元素がバランスよく配合 |
硬度(HRC)目安 | 熱処理により HRC 58~62前後 | 熱処理により HRC 58~61前後 |
切れ味 | – 銀紙3鋼に軍配 – 比較的鋭い刃付けが可能 – 錆びにくさを保ちながら、炭素鋼に近い切れ味が得られるとの評価も | – 硬度が高めで切れ味が良い – 高い耐摩耗性により切れ味が長持ち |
耐摩耗性(刃持ち) | – ステンレス鋼としてはまずまずの刃持ち – VG10ほど合金元素が多くないため、極端な高耐摩耗性ではないが、日常使用には十分 | – VG10号に軍配 – 合金元素が豊富で耐摩耗性に優れる – 包丁の使用頻度が高い現場でも、比較的長く切れ味を保ちやすい |
耐食性(錆びにくさ) | – クロム含有量が13%程度のため、通常の使用では十分錆びにくい – 使用後の手入れをしっかり行えば、サビトラブルは起こりにくい | – VG10号に軍配 – ステンレス鋼の中でも錆びにくい部類 – 汚れや水分を放置すると問題が出る可能性はあるが、基本的に耐食性が高く扱いやすい |
研ぎやすさ | – 銀紙3鋼に軍配 – 炭素鋼に近い感覚で砥石が当たりやすい – 比較的研ぎやすい部類のステンレス鋼との評価 | – 硬度・耐摩耗性が高いため、やや研ぎにくい傾向 – ダイヤモンド砥石やセラミック砥石など、高い研磨力の砥石を使うと研ぎ時間を短縮可能 |
価格帯 | – 銀紙3鋼に軍配(廉価) – 一般的にVG10包丁よりもやや安価になりやすい – コストパフォーマンス重視のステンレス包丁として人気 | – ハイエンドステンレス包丁で多用される素材 – 合金元素が多く製造コストも高めのため、比較的高価格帯の製品が多い |
主な特徴・用途 | – ステンレス鋼と炭素鋼のバランスを意識した素材 – 日常的な家庭用包丁、あるいは中級~上級向け包丁にも採用されることがある | – プロ用・高級包丁での採用例が多い – 切れ味重視の趣味用途から業務用まで幅広く活躍 |
総評 | – 切れ味、研ぎやすさ・扱いやすさ・そこそこの耐久性があり、「日常使いのステンレス包丁」として評判が良い | – 刃持ち・耐食性を兼ね備えた、人気の高いハイエンド素材 – 職人・料理人にも愛用されるが、研ぎにはやや技術と手間が必要 |
銀紙3号は料理人や包丁を頻繁に研ぎたい方におすすめの鋼材となっています。研ぐたびに鋭利な切れ味を取り戻すことができ潜在な料理で大いに活躍が期待できます。
銀紙3号のおすすめ包丁とは?


實光刃物は、大阪府堺市に拠点を置く老舗の包丁メーカー・刃物ブランドです。
堺市は「堺打刃物」の産地として400年以上の歴史を誇り、国内外の料理人から高い評価を受けています。
その中でも實光刃物は100年以上の伝統を受け継ぎ、熟練の職人による手仕事と最新技術を組み合わせ、高品質かつ切れ味に優れた包丁を提供していることで知られています。
おすすめなのは實光刃物の【銀三】三徳包丁です。刃渡りは180mmとなっています。
価格は58,520円と決して安くはありませんが、美しい刃模様と切れ味が特徴の銀紙3号の包丁となっています。
日本国内の料理人はもちろん、海外のシェフからも「切れ味が長持ちする」「研ぎ直ししやすい」などの理由で支持されています。
まとめ
銀紙3号は切れ味、研ぎやすさ、扱いやすさ、そこそこの耐久性があり、「日常使いのステンレス包丁」として家庭用からプロ用まで幅広いニーズを満たしています。
代表的な高級ステンレス包丁ということができるでしょう。
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