包丁を研ぐことによって、切れ味を維持し調理を効率化することが出来ます。
刃が鋭いと食材を潰さずに切れ、味や食感を損なわず安全に作業できます。また、刃こぼれや錆を防ぎ、包丁の寿命を延ばす効果もあります。

研ぐための道具として中心的な役割を果たしているのが中砥石です。
本日は中砥石の特徴や使い方、仕上げ砥石との違いについてわかりやすくお伝えしていきます。
中砥石とは?
一般的に包丁を研ぐ砥石には大きく「荒砥石」「中砥石」「仕上げ砥石」の3段階があります。そのうち中砥石は、下記のような特徴や用途をもつ砥石です。
粒度(グリット)目安は1000前後
砥石の「粒度」(グリット番号・番手などとも呼ばれます)とは、砥石に含まれる研磨粒子の大きさを示す数値のことです。
粒度が荒いほど削る量が多く、研ぎ速度は速いですが、研ぎ傷も深くなります。粒度が細かいほど切削力は弱くなりますが、研ぎ傷が浅く、より滑らかな表面・刃先が得られます。
おおよそ#800~#2000前後の粒度が中砥石とされます。メーカーや製品によって多少幅がありますが、#1000前後を「中砥石」の代表的な粒度と考えてよいでしょう。
中砥石の役割
砥石には中砥石の他に荒砥石や仕上げ砥石があります。
荒砥石
粒度目安:#80~#600程度
仕上げ砥石
粒度目安:#3000~#8000程度
それぞれの役割は以下となります。
荒砥石
◯ 刃先に大きな欠けがあるときや、刃幅(刃厚)を大きく削って再成形したいときに使用。
◯ 削る力が強いので、短時間でガッツリ削れますが、研ぎ傷も深くなりやすい。
中砥石
◯ 一般的な研ぎの中心となる砥石。
◯ 刃こぼれや欠けが小さい場合の修正や日常的な切れ味回復は、中砥石が最も出番が多い。
仕上げ砥石
◯ 中砥石で形状を整えた後、最終的に切れ味を高めたり、表面を滑らかに仕上げたりしたい場合に使用。
◯ 10000を超えるような超仕上げ砥石も存在し、より鏡面に近い仕上げや究極の切れ味を求めるときに使う場合もある。
中砥石が必要となるタイミング
包丁を研ぐかどうかの判断基準や“どのような状態のときに中砥石で研ぐ必要があるか”は、基本的には「切れ味が落ちた」「刃に欠けや潰れ(摩耗や変形)が生じた」といった共通項目で見極めることが多いです。
ただし、鋼材によって切れ味の落ち方や不具合の出方、研ぎの頻度が異なります。

以下に炭素鋼・粉末ハイス鋼・ステンレス鋼それぞれで「中砥石が必要になる主な状態」の目安を整理します。
炭素鋼包丁のケース
炭素鋼包丁は炭素含有量が高く、切れ味が良い反面、錆びやすいというデメリットがあります。


刃先は比較的もろく、使い方や保管状態によっては欠けやすくなっています。
研ぎやすく刃がつきやすいが、錆や摩耗の進行が早い傾向もあります。
中砥石が必要になる状態の例は以下の通りです。
切れ味の急激な低下
◯ 錆や酸化の影響を受けやすく、刃先が微細に腐食すると切れ味が落ちることがあります。
◯ 「今までスパッと切れていた野菜や肉を切るときに引っかかる」「切断面が潰れる」などで気づくことが多いです。
錆の発生や黒ずみが進行し、刃先の艶がなくなっている
◯ 表面の黒錆はある程度保護膜の役割もしますが、研ぎたい部分(刃先近く)が赤錆に侵されている場合や錆が深く入っている場合は早めに中砥石で刃先を整え、錆を落とす必要があります。
小さな刃こぼれ・欠けが発生している
◯ 炭素鋼は比較的脆いため、硬い食材や骨などを切った時に刃先がチップしやすいです。微細な欠けは中砥石で整えれば直せる場合が多いです。
刃先の丸まりや、触ったときに“かえり”が感じられない
◯ 研ぎの頻度が足りないと、刃先が丸まってしまい切れなくなります。刃先が鈍くなったと感じたら、まずは中砥石で再成形を行いましょう。
粉末ハイス鋼包丁のケース
粉末冶金法で製造されたハイス鋼。非常に高い硬度と耐摩耗性を持つ。



切れ味が長持ちしやすく、ステンレス性(耐錆性)もある場合が多いですが、硬いゆえに欠けるときは欠けやすい面もあります。研ぎ難さもありますが、切れ味が落ちにくいため、頻繁には研がなくても良いのがメリットです。
粉末ハイス鋼包丁で中砥石が必要になる状態の例は以下の通りです。
切れ味が明らかに落ちたと感じるとき
◯ 耐摩耗性が高いので、炭素鋼や一般的なステンレス鋼よりも「長く切れ味を保ちやすい」傾向があります。
◯ その分、切れ味が鈍った際は、研ぎに入るべきサインと考えて良いです。
小さな欠けや刃先の変形・潰れ
◯ 高硬度ゆえに粘りが少なく、衝撃で欠けが発生することがあります。見た目に分かりにくい程度の微細な欠けでも、切れ味に影響する場合は中砥石での研ぎが必要です。
先端が軽く丸まっている、引っかかりが無くなった
◯ 刃先の摩耗やわずかな欠けでエッジが丸まっている場合、#1000前後の中砥石で形状を整え直します。
仕上げ砥石だけでは切れ味が戻らなくなった場合
◯ 粉末ハイス鋼は仕上げ砥石である程度シャープに整えられるものの、根本的に刃先を再形成する必要があるときは仕上げだけでは不十分です。
◯ このようなとき、中砥石でしっかり“面”を出し、刃先をリセットしてから仕上げる必要があります。
ステンレス鋼包丁のケース
錆びにくいというメリットがあり、一般的な家庭用包丁として普及している。




炭素鋼に比べると多少研ぎにくいものの、最近は高級ステンレス鋼(モリブデン鋼、VG系など)は切れ味が良いものも出てきています。
炭素鋼より欠けにくい傾向はありますが、使用状況によっては刃先は摩耗します。
ステンレス鋼包丁で中砥石が必要になる状態の例は以下の通りです。
切れ味の低下をはっきりと感じるとき
◯ ステンレス鋼は炭素鋼と比べて切れ味の落ち方が“緩やか”な場合が多いですが、切り始めがスムーズに入らない・食材に押し当てないと切れない、といった状態であれば中砥石でしっかり研ぐタイミングです。
微細な刃こぼれや曲がり
◯ ステンレスは錆びにくい分、刃先がゆっくり丸まっていくことが多いですが、硬いものを切ったときに小さな欠けが発生した場合は中砥石で修正する必要があります。
指先や爪で刃を軽く触れたときに“引っかかり”がなく滑ってしまう
◯ 刃先が丸まっているサインです。#800~#1500程度の中砥石を使い、エッジを再形成します。
使い始めより切れ味が明らかに落ちたのに、シャープナーや仕上げ砥石で回復しない
◯ シンプルなスチールシャープナーや簡易シャープナーで一時的にエッジが立たない場合は、もう少し荒めの中砥石で一から研ぎ直す必要があります。
刃材毎に適切な中砥石の粒度
以下の表は、炭素鋼・粉末ハイス鋼・ステンレス鋼それぞれの包丁における「中砥石の推奨粒度帯」です。理由についても纏めています。
材質(推奨粒度帯) | 特徴・用途の目安 |
---|---|
炭素鋼 #800 ~ #1500 | – 錆びやすい分だけ刃の状態変化が早いため、やや荒めでもしっかり刃先を整えやすい。 – 日常的な研ぎなら #1000 前後、微細な仕上げを求めるなら #1500 程度を選ぶと良い。 |
粉末ハイス鋼 #1000 ~ #2000 | – 高硬度・高耐摩耗性のため、長く切れ味を保てるが、研ぎにくい傾向。 – #1000 前後なら欠け修正と再形成に十分対応できる。 – 仕上げ砥石との併用を考える場合は #1500~#2000 も視野に。 |
ステンレス鋼 #800 ~ #1200 | – 錆びにくく、切れ味の落ち方が緩やか。 – 一般的には #1000 前後が使いやすい。 – 欠けがやや大きい場合や短時間で修正したい場合は #800 も検討。 – 高級ステンレス鋼(VG系など)では #1500 に近い砥石を使う場合も。 |
大きな欠けがあればやや荒め(#800前後)を。軽度の欠けや日常的な切れ味回復には#1000程度がおすすめです。
仕上げ砥石(#3000~#8000 など)とセットで使うなら、間をつなぐ中砥石として#1000~#1500あたりを選ぶとスムーズです。
粉末ハイス鋼は硬度が高いので、#1000前後でも十分時間がかかることあり。焦らずしっかり角度を保ち研ぐのがポイントとなります。
中砥石の使い方
以下は、中砥石(おおむね #800~#2000程度)を使って包丁を研ぐ際の一般的な手順とポイントです。砥石や包丁の種類によって多少手順が異なる場合もありますが、参考にして下さい。
手順①:砥石の準備
◯ 多くの水砥石は使う前に水へ浸して十分に吸水させる必要があります。
◯ 目安としては10~15分程度、泡が出なくなるまでしっかり吸水させましょう。
◯ セラミック系や“リバータータイプ”(水掛けだけでOK)の砥石は説明書に従い、必要に応じてサッと水をかければ使えるものもあります。
◯ 砥石を台や滑り止めシートの上に置き、動かないように安定させましょう。
◯ 砥石台を使うと高さも出て研ぎやすくなります。
◯ 砥石の面が凸凹している場合は、面直し用の砥石や耐水ペーパーなどで砥石の表面を平らに整えてから研ぐと均一に研ぎやすいです。
手順②:包丁を研ぎ始める前の準備
◯ 一般的な洋包丁では15~20度程度、和包丁は10~15度程度といわれることが多いです。
◯ 手の感覚で「これくらい」という目安を覚えておくか、角度ガイドなどを利用するのも良いでしょう。
◯ 砥石の表面が乾燥すると研磨力が落ちるので、作業中も適宜水を足して砥石の表面を潤しておきます。
◯ 泥(砥泥)が出てきたら、その泥を活かして研ぎ進めることで研ぎ効率が上がります。
手順③:片面を研ぐ
◯ 利き手で包丁を持ち、反対の手の指先で刃先を軽く押さえながら研ぎます。
◯ 刃を当てるときに設定した角度をキープすることが重要です。
◯ 基本的には「前後(あるいは往復)」または「前に押すときだけ力を入れる」「斜め方向に動かす」など、人によってスタイルは少し異なります。
◯ 力加減は強すぎず、砥石にしっかり当たるくらいでOKです。強く押し付けすぎると刃がぶれたり、砥石が過度に減ったりしてしまいます。
◯ 刃先全体が均等に砥石に当たるように、刃を少しずつずらしながら研ぎましょう。
◯ ある程度研ぎ進むと、刃の反対側に“バリ(かえり)”が出てきます。
◯ バリが均一に出てきたら、その面の研ぎは大きく分けて完了です。
手順④: 反対面を研ぐ
◯ 包丁をひっくり返し、同じ角度で反対面も研ぎます。
◯ 反対面にもバリが出てくるまで研ぎましょう。
◯ 片面を研ぐ→バリが出る→反対面を研ぐ→またバリが出る、の繰り返しで最終的にバリがなくなるまで研ぎます。
◯ 仕上げに近い段階では、強く研がずに軽い力でサッと数回往復する程度にしてバリを除去すると刃先が整います。
手順⑤:仕上げ・バリ取り
◯ 作業途中や作業後には砥石を水で流し、目詰まりしていたらブラシなどで軽く擦って落とします。
◯ 中砥石のみで終わらせても日常使用には問題ありません。さらに切れ味を追求するなら、より細かい仕上げ砥石(#3000~#8000程度)で最終的に軽く研ぐのも効果的です。
◯ 仕上げ砥石を使わない場合でも、中砥石で研ぎ終わった後に“返り(バリ)”を丁寧に取ることで切れ味が向上します。
◯ 研ぎ終わった包丁は水気をしっかり拭き取り、サビ防止のため油分が必要な炭素鋼などは薄く油を塗ることもあります。
◯ 砥石も水気を拭き取って風通しの良い場所で乾燥させ、直射日光や急激な乾燥を避けて保管しましょう。
手順6: 研ぎのチェック
◯ 研ぎ傷が均一に入っているか、刃先に光の反射(丸まった“地肌”)が見えていないかを確認します。
◯ 切れ味を軽くテストするときは指の腹で刃先を触れたり、紙をスッと切ってみるなど安全に配慮して行ってください。
◯ 中砥石だけで、ある程度実用的な切れ味が手に入ります。
◯ さらに鋭く&繊細な切れ味が欲しければ仕上げ砥石を使用しましょう。
プロ用におすすめの中砥石
それではおすすめの中砥石を2つ紹介します。
堺一文字光秀 特選砥石 煌シリーズGC 中砥石 #1000特級品

メーカー | 堺一文字光秀 |
粒度 | #1000 |
価格 | 32,000円 (税込) |
堺一文字光秀は、500年の歴史を継承し、伝統の技で職人が一本一本手仕上げする高品質包丁を扱う老舗で、日本料理のプロからも高く評価されています。
「特選砥石 煌シリーズGC 中砥石 #1000特級品」は切れる刃をつけるのに適したハイエンドの中砥石となっています。料理人の期待に応える逸品といえるでしょう。
實光刃物 セラミック砥石 中砥 #1000

メーカー | 實光刃物 セラミック砥石 中砥#1000 |
粒度 | #1000 |
サイズ | 202mm×77mm×25mm |
価格 | 10,120円 (税込) |
堺の名門包丁屋の實光刃物によって提供されているセラミック砥石です。
セラミック砥石は、人工的に焼結されたセラミック素材を使った砥石で、砥粒の大きさや密度が一定で、研ぎ味が安定しやすいです。メリットとデメリットをまとめたものが以下です。
メリット | デメリット |
---|---|
粒度が均一で研ぎ味が安定しやすい | 硬度が高い反面、落下や衝撃で欠けたり割れたりしやすい |
高い硬度と耐摩耗性があり、平面を保ちやすく長期間使用できる | 天然砥石や他の合成砥石に比べると価格が高めの場合が多い |
目詰まりしにくく、一定の研削力が長く続き、効率的に研げる | 硬すぎるため、初心者には刃の当たり具合を感じ取りにくい場合がある |
水をつけるだけで使用でき、後片付けやメンテナンスも比較的簡単 | 強い研削力により、使い方を誤ると刃を傷めるリスクがある |
セラミック製品のため品質にムラが少なく、同じ粒度で安定した仕上がりを得やすい | 人工素材独特の研ぎ味が好みでない場合もあり、天然砥石の風合い・仕上がりを求める人には向かない場合がある |
まとめ
包丁などの刃物を日常的にメンテナンスする際に使用されるのが中砥石です。
粗砥石で大きな欠けや刃先の修正を行った後、仕上げ砥石に移る前の段階で主に活躍し、一般的には#800~#2000程度の粒度が用いられます。
最適な使い方には十分な浸水や角度の管理が重要で、適切な力加減で磨くことで切れ味を長持ちさせることができます。また、定期的に面直しを行い、砥石の表面を平らに保つことも大切です。
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